安東陽子 と「テキスタイル」

Credit : Writer きづき編集部
From : きづきvol.37「建築と私」

著名建築家と、思い入れのある建築物。古い友人のようなその場所で、ある人は“建築を始めたきっかけ”を、またある人は“恩師との思い出”を―彼らは、在りし日の自分と対峙し、語り始める。

安東陽子さんにとっての「テキスタイル」とは。

衣食住の中に自然に溶け込むテキスタイル

人の生活を成り立たせる衣食住の場面でテキスタイルは広く活用されています。しかも、その存在をとりわけ強く主張することはなく、生活の中に自然に溶け込んでいるといえます。たとえば、衣服に袖を通す瞬間に、肌触りやかすかな匂いから布地の性質を感じますが、着心地の良い衣服は一旦身に着けてしまうとその存在は意識にはのぼらないもので、着ている私たちに対して何かを主張する事はありません。また、私が近年関わりの多い建築空間で使用するテキスタイルには、窓から差し込む外光や緩やかにそよぐ風など、そのままでは透明で見えないものをカーテンなどの動きを通じてそこにいる人に感じさせるはたらきがありますが、建築物の中で自分自身の存在を主張するということは期待していません。

人と建築と自然をつなげ、心地良い空間をつくり出す

これまで、建築の中でテキスタイルが果たす役割がある、ということについておそらく多くの人にはっきりと意識されることはなかったのではないかと思います。建築の設計では構造と環境、電気設備など様々な要素で少しのミスも許さない厳密なアプローチが求められる一方で、テキスタイルの寸法精度は、もちろんカーテンの丈を窓に合わせるには細かい調整をしますが、使用する場面に応じて時にセンチ単位の許容をもち、むしろできあがりを素材自身のもたらす意外性にゆだねるようなときもあります。ハードな建築空間の中でテキスタイルの持つ柔らかな特性がうまく利用される場面も最近増えてきました。

完成された建築空間の中にたたずむテキスタイルは、ただの引き立て役ではなく、その場にとけ込みつつ人と建築と自然をバランスよくつなげるようなものになると考えています。私が建築家の方々と協働するときには、建築家の考えに合わせてテキスタイルを活用する一方で、テキスタイルの持つ機能で光や空間をつくり出す提案をすることもあります。そのようなとき、私自身も媒体の役割を果たしていると感じます。

  1. みんなの森ぎふメディアコスモス(設計:伊東豊雄建築設計事務所/photo:阿野太一)
  2. 山梨学院大学国際リベラルアーツ学部棟(設計:伊東豊雄建築設計事務所/photo:中村絵)

安東 陽子(Yoko Ando)

テキスタイルデザイナー・コーディネーター。武蔵野美術大学短期大学部卒業後、株式会社布(NUNO)でクリエイティブスタッフとして勤務。2011年独立し「安東陽子デザイン」設立。伊東豊雄、山本理顕、青木淳、シーラカンスアンドアソシエイツ(CAt)、平田晃久など数多くの建築家とのコラボレーションで様々な空間にテキスタイルを提供。「ぎふメディアコスモス」や「台中メトロポリタンオペラハウス」などの話題の建築プロジェクトにてテキスタイルデザインを担当。

テキスタイル

織物や布地など、服飾やインテリア用のデザインされたファブリックのこと。糸、配色、図柄、加工、質感など、幅広い範囲におよぶ意匠を指す。
メイン写真にあげられた「みんなの森 ぎふメディアコスモス」は、天井からさげられた自然エネルギーを活用する装置にテキスタイルを用いることで、空間の意義を示すとともに、意匠的役目を担わせている。また「山梨学院大学国際リベラルアーツ学部棟」では、鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)7階建という“ハードな建築”ながら、壁一面の窓にファブリックを設置。テキスタイルの素材性質を活かして、柔らかな光で空間の調和をとっている。

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