宮晶子と「窓の魔法」

Credit : Writer きづき編集部
From : きづきvol.39「建築と私」

著名建築家と、思い入れのある建築物。古い友人のようなその場所で、ある人は“建築を始めたきっかけ”を、またある人は“恩師との思い出”を―彼らは、在りし日の自分と対峙し、語り始める。

宮晶子さんにとっての「窓の魔法」とは。

シチリア島の小さな美術館で見つけた
魂が浮遊して出入りできるような“窓”

独立間もない頃、イタリアのシチリアを旅したとき、建築家のカルロ・スカルパが改修したパレルモ(*1)にある小さな美術館を訪ねました。それは、中庭のまわりに小さな部屋がたくさん並ぶ、元々は修道院として設計されたものでした。建物の中へ歩みを進めていくと、部屋の入口がひとつ、またひとつと見えてくるのですが、その入口がまるで額縁であるかのように奥に作品がそっと置いてあるのでした。その前にくると一瞬、絵画を見ているような感覚になるのです。でももちろん、その中はくぐれて先にはやっぱり次の部屋があり、入ればまた異なる角度でじっくりと作品に向き合うことができるのです。
それは、2次元と3次元の間をいったりきたり、眺めることと、くぐること、が対象化されて自分の身体の中に織り込まれていくというような感覚でした。また、部屋の窓から見える空の景色がとても美しく、こころに残るものだったのですが、展示室をめぐり元来た中庭へ出るとふたたび、その窓の外がわの佇まいに出会います。それを眺めるとまた部屋の中から見た窓の風景が思いだされて、2次元と3次元、もっといえば4次元を行ったり来たりできるのでした。高いところにある窓なので実際には出たり入ったり、くぐったりはできないのですが、そんなふうに魂が浮遊して自由に出入りできる気持ちになるような窓なのです。

*1: シチリア島北部に位置し、イタリアでも5番目に人口の多い街。昔から多くの民族が代わる代わる文化を築いてきたため、数々の歴史の痕跡が残る。

中からは外のことを
外からは中のことを意識する「窓の魔法」

もっとも、窓が開いていればいつでもこんな風な感覚になれるわけではありません。改修前の修道院時代の写真には、たくさんの窓がただ雑然と並んでいただけのようでした。スカルパはその窓の位置や数、その窓周りの装飾まで、まるで元々そうだったかのように、さりげなく、しかし、まったく違う窓にかえていたのです。
開口部(*2)にかけられたこのスカルパの魔法が思い出されたのは、昨秋完成した小さな部屋が連なる住宅の設計をはじめたころでした。風景の中からただ一部を切り取るのではない、中にいながら外にいるよりも外のこと、外にいながら中にいるよりも中のことを意識してしまう、この「窓の魔法」のかけ方について、今後も考え続けていきたいと思います。

*2: 建物の壁や天井に設置された、窓や出入り口として開閉できる部分のこと。目的は採光、通風、換気、人や物の出入りなど。

  1. 美術館内部。※掲載写真の本『Carlo Scarpa und das Museum』(Chistine Hoh-Slodczyk/Ernst&Sohn)
  2. カルロ・スカルパが改修した元修道院の美術館「Galleria Nazionale della Sicilia」。

宮晶子(Akiko Miya)

1986年日本女子大学住居学科卒業、1986~91年レーモンド設計事務所、1991~97年アルテック建築研究所、1997年STUDIO 2A設立。
2000年~横浜国立大学非常勤講師、2001~2010年東海大学非常勤講師、2009~2011年日本女子大学非常勤講師、2011年神奈川大学・東京理科大学・芝浦工業大学・東海大学非常勤講師、2012年~日本女子大学准教授。1999年「那須の山荘」で栃木県マロニエ建築奨励賞、2004年「kogota seminar house」でSD review入選、2004年「ZEBRA chair」で杉コレクション2004優秀賞、2010年「house I」で新建築賞、2011年「house K」でJIA新人賞受賞、2013年「京浜急行電鉄高架下新スタジオSite-B」で神奈川建築コンクール優秀賞、2015年「食堂の壁」でGoodDesign賞、2017年「食堂の壁のはなれ、屋根と窓のある家」第6回木質空間デザインコンテスト最優秀賞ほか。

カルロ・スカルパの「窓の魔法」

ヴェネツィア生まれの建築家カルロ・スカルパの代表作のひとつ、シチリア州立美術館。もともとは1495年に修道院として建てられたが、戦争により破損。1954年に美術館として再生された。さまざまな民族によって支配されてきたシチリアの、多様な建築様式を示す歴史的建造物としても見どころの多い建物だが、古い建物を再生させることを得意としたスカルパ。若き日の彼が手がけた窓には、とくにその鋭い感性が伺える。漆喰の白い壁に規則的に配置された窓や扉は、わざとその内のいくつかが塗り固められている。展示物も同様に壁に埋め込んであるため、観客はそのすべてを作品として鑑賞することができる。建築家の香山壽夫は、その仕事ぶりに感心し「その美しく優しく、叙情的作品は、現代建築において、再び、見る喜び、訪れる喜びを回復させた」と評した。

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