理想の“故郷”のつくり方馬場 未織

Credit : Writer,Photo きづき編集部
From : きづきvol.36「あの人に会いたい」

独身時代は設計事務所にて激務をこなし、暇さえあれば美術館やコンサートに足を運ぶ日々を過ごしていたという、建築ライター・コーディネーターの馬場未織さん。そんな“都会っ子”だった彼女が、生きもの好きの息子さんのために南房総にセカンドハウスをかまえることになった。当初はご自身でも「非合理極まりない」と思っていた“週末田舎暮らし”だったが、子どもたちが大きくなったいま、むしろ南房総へ赴くペースは増えているという。「家を維持すること、里山を守ること、そのために助け合うこと、これらは繋がっている」そう語る馬場さんは、今日も“家族の故郷”となった南房総の未来を守るため活動に勤しんでいる。

東京生まれ東京育ちの“週末田舎暮らし”

都会に住む家族にとって、子どもの遊び場問題は深刻です。
高度に集積された都会には自然はおろか、空き地など誰の管理下にもない本当の意味で自由な遊び場はもはやなく、多様な生きものたちとの出会いも期待できません。

東京生まれ東京育ち、主婦で建築ライターの馬場未織さんは、「田舎で子育てしたい」という思いから”週末田舎暮らし”を実践してきました。はじめた頃は二人だった子どもは三人に増え、生きものが大好きな長男は高校生になりました。東京と南房総をアクアライン経由で往復する暮らしはすでに10年間続いています。「子どもたちは大きくなりましたが往復のペースはむしろ増えています」9年前からはじめたブログ「南房総リパブリック」がNPOになり、里山保全・里山活用の活動が本格化したからです。

「こんな風に根を張ることになるとは想像もしていませんでした。最初は、田舎で子育てしたい、という思いだけでした」
8,700坪という広大な敷地と築100年以上の古家での暮らしは、結果的に”遊びや生きものたちとの出会い”だけでは済ませてはくれませんでした。
「ここまで土地が広かったり、移動人数が多かったりするのは重たいケースなんだと思います。もっと軽いパターンもあるだろうし…」
しかしその一方で、大変だからこそ見えてくることがあるとも語ります。
「土地や家を維持すること、里山環境を守ること、そのために助け合って生きること、これらは全て繋がっていて必然なんです。大変だからこそ楽しいんです」


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  1. 築100年以上を経過した住まい。代々受け継がれてきた家の重みは、”住まわせてもらっている”という感覚にさえなる。
  2. 地域の方々と一緒に水路の掃除をする馬場さん。里山の風景を守ることは、生活に直結している。

世界は一つではない。“当たり前”の違う世界で

私たちが見えている世界はある意味限定的な世界といえます。役割は細分化され、生きていくためのほとんどのことは外注(お金)によって手に入れることができます。

都市はその象徴的な場所であり、膨大な消費は周辺の地域や生態系、地球環境が支えているわけですが、都会に住んでいる限りそこで何が起こっているかまでは目に見えません。里山の風景に憧れても、その風景がどう守られてきたかまでは見えないわけです。

「例えば、東京に行きたくても行けない人が田舎に残っていたりする現実も一方ではあるわけです。田舎では、競争社会で生き残っていくのが難しい、障がいなどを抱えた人たちをよく見かけます。東京にももちろん、同じ状況はあると思いますが、”生き残る”ための戦いの熾烈な場所とは違う空気感が、ここにはあり、社会的に弱い立場にある人たちを抱えながら一緒に暮らす日常が、穏やかに続いています」
田舎は生きていくために助け合う、支え合うことが当たり前の世界です。環境や生態系に支えられていることを含めてです。馬場さんご家族は身をもってそのことを感じていて、世界は一つだけではないことをとても意識するそうです。

「アクアラインを走っているとき、二つの世界を行き来している感覚を持ちます。都会と田舎のそれぞれを相対的にとらえている自分がいるんです」
日常に流されていると近視眼的になりがちです。都会で忙しく暮らしていればなおさらかもしれません。

「住まなくてもいいから、大好きな場所として田舎を少しでも知ってもらえたらいい、今はそんな思いで活動しています」
普通、私たちは(共時的には)どちらかの世界でしか生きていられないと思いがちです。馬場さんたち家族は都会と田舎の二つの世界、二つの人生を生きられることを示しているといえるのかもしれません。


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  1. 古家の台所で料理をする長女。
  2. 草刈りをする長男。田舎暮らしは子どもたちの“生きる力”を育み、“生かされている”感覚を養う。

馬場 未織 (Miori Baba)

1973年東京生まれ。
1996年日本女子大学卒業、1998年同大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターへ。
2014年株式会社ウィードシード設立。
2007年より二地域居住を実践。2011年に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。
著書に『週末は田舎暮らし〜ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記〜』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く、住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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