パッシブから考える本来の“家づくり”森 みわ

Credit : Writer,Photo きづき編集部
From : きづきvol.37「あの人に会いたい」

日本で唯一、ドイツのパッシブハウス研究所が認めるパッシブハウス・コンサルタントの資格を持ち、“日本ならではのパッシブハウス”を考える機関「パッシブハウス・ジャパン」を設立するなど、日本の省エネ住宅の第一人者として活躍される、森みわさん。大学院生時代に渡独。そのままヨーロッパ中の設計事務所を渡り歩いた。その経験から「設計者がデザインと省エネの両立を手がけること」を目指し、“家づくり”から「地球温暖化問題」「脱化石燃料消費」へ取り組む。
“大事なのは帳尻ではない”、“住まいのエネルギー的自立が必要”、“家は金融商品ではない”など、ラディカルなワードが次々に飛び出したインタビュー。帰国から5年、本当の省エネ住宅の普及に奔走する、森さんがいま提唱する本質的な“家づくり”とは?

帳尻合わせの「ゼロ」ではなく大事なのはプロセス

日本のZEHがヨーロッパのゼロエネと同様、一次エネルギーで測るという共通のモノサシを用いている点は評価できると思います。ただ、日本のZEHはどちらかというとゼロになったか否か、すなわち「Yes」か「No」の選択を迫られている感じで、あたかもZEH(*1)が目的化されているような気がしてなりません。しかし、大事なことはZEHへのプロセスであって、ZEHをどう達成しているかなんだと思います。ゼロにすると言った時点で、どうしても太陽光発電などアクティブな機器が絶対に必要になってしまう、絶対に必要だから、それらを前面に押し出すようなZEHが目立つようになってしまうのです。それに対してヨーロッパのゼロエネへのスタンスはゼロにできるかどうかが重要ではなくて、いつでもゼロにできる、アクティブな設備を導入すればゼロが可能、その状態までまずは建物性能(断熱・気密)を上げておく、つまり「パッシブ(*2)」を優先してゼロを達成しようというのが基本です。そのプロセスをすっ飛ばしてゼロならいい、帳尻さえ合っていればプロセスは問わないというのが日本のZEHの基本的スタンスなんだと思います。

*1: ZEH(ゼッチ)=Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略。太陽光発電など自家発電でエネルギーを創り出すことにより、年間の一次消費エネルギー(冷暖房、照明、給湯、換気)をゼロにする住宅のこと。国の政策で2020年までに新築住宅のゼロ・エネルギー化が推進されている。

*2: 断熱性など建物の性能を上げることにより、住宅などの省エネ性能を上げること。「アクティブな空調設備は不要」という意味合いで「パッシブ(受け身の、外部からの働きかけに反応を返す)」と呼ばれる。なお「パッシブハウス」は、ドイツのパッシブハウス研究所が規定する性能認定基準を満たす住宅で、建物の省エネ基準としてはもっとも厳しいといわれる。


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  1. 前沢パッシブハウス(富山県黒部市)。日射の少ない北陸の気候でも、高性能サッシの大開口を南に設けることで、パッシブハウス基準をクリア。

温暖なはずの日本がヨーロッパより消費エネルギーが多い理由

建物性能を上げることは省エネになるだけでなく、家全体で温度差のない快適な温熱環境をつくることができます。日本の暖房の方法は長く、人がいる部屋だけを暖房するという考え方でしたが、ZEHにもこの考え方が残っています。断熱材の量も消費エネルギーをヨーロッパレベルにするためには20㎝程度の厚みが必要なのに、10㎝程度で良いとされていて、今やヨーロッパの最新の住宅よりも気候が温暖なはずの日本の住宅のほうが暖房の消費エネルギーが多いという結果になっています。

それも人がいる部屋だけ暖めるという貧弱な温熱環境にも関わらずです。不足している断熱材の厚さ10㎝分を太陽光発電で穴埋めしているというわけです。それと、帳尻合わせのゼロエネは、結局本質的な脱化石燃料消費の主旨から逸れていることになります。例えば、冬は暖房エネルギーがたくさん必要になりますが、一方で太陽光発電は冬に発電量が下がります。そもそも暖房が一番必要な夜は発電しません。通年でエネルギーゼロならいい、夏に電気をたくさん売って、冬は必要なだけ買えばいい、冬の暖房は相変わらず化石燃料に頼る、というのではエネルギー的に自立しているとはいえません。ゼロエネの本質的な目的はエネルギーがゼロになることではなく、個々の住まいのエネルギー的自立にあるはずです。

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  1. 前沢パッシブハウス内観。内部は間仕切りがほとんど無く、お互いの気配が分かる暮らし方をサポート。開放的な間取りは夏の通風にも有利。
  2. 前沢パッシブハウス内観。床下エアコン1台、もしくはリビングのエタノールバーナー1台で42坪の家は隅々まで快適な温度に。

経済性ではなく、本質的な“家づくり”に立ち返る

日本のZEHが帳尻合わせという面はありますが、個々の住まいでは建物性能をより高めることはできるわけです。私たちつくり手は住まい手にそのことを提案していくべきです。ただ、アクティブの効果は目に見えやすいのに比べ、パッシブの効果は見えにくいのも現実です。経済性という観点に立てば、高く買い取ってもらえる太陽光発電は大きな魅力です。それに比べ断熱性の魅力って何? 何年でペイできるの? ってなりますよね。快適や健康、暮らしやすさといったお金に換算できないパッシブの効果は過小評価されがちです。私もよくお施主さんに説教しちゃうんですが、家族が健康でいつもニコニコしているのって嬉しいですよね、それってプライスレスじゃないですか。イニシャル増をランニング減でペイしようという話はいっぱいあるわけですが、家ってそういうものではない、金融商品ではないはずです。家族の笑顔や幸せのために“家づくり”はあるはずで、省エネやゼロエネ=経済性という一元的な見方はできないはずです。ZEHを機に、アクティブとパッシブのバランスをどうすべきかなど、住まい手とつくり手の双方にとって、本来の“家づくり”に気付くきっかけになればと思います。

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  1. 古い薬局をリノベーションした森さんの仕事場。古民家なのに新築以上の省エネ性能を持つ。奥にはカフェを併設し、景観に溶け込み、街に開かれた佇まいはプライスレスの価値を物語っている。
森 みわ(もり・みわ)
森 みわ(もり・みわ)

森 みわ (Miwa Mori)

森みわさん。1977年東京都生まれ。1999年横浜国立大学工学部建築学科卒業。2002年独シュツットガルト工科大学都市計画学科卒業。2009年キーアーキテクツ設立。2010年一般社団法人パッシブハウス・ジャパン設立。鎌倉パッシブハウスにて2010年国際パッシブハウスデザインアワードを受賞。ドイツ・バーデンヴュルテンベルク州公認建築士。東北芸術工科大学客員教授。著書に『世界基準の「いい家」を建てる』(PHP研究所)、『図解エコハウス』(エクスナレッジ)など。

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