「得」より「徳」ある“いい家”伊礼 智

Credit : Writer,Photo きづき編集部
From : きづきvol.37「あの人に会いたい」

「建築家は省エネ住宅を嫌う」とのっけから辛辣な言葉が飛び出した、建築家・伊礼智さんのインタビュー。もともとOMソーラーのシンクタンクに事務所を間借りしていたこともあり、パッシブや省エネへの造詣も深い。また日本大学工学部 建築工学科で教鞭を振るほか、住宅デザイン学校の校長も務める。だからこそ「性能だけに目を向け、“暮らしやすさ”に配慮が欠ける住宅」が許せないのだ。言葉だけではない。伊礼さん自身、2007年には「東京町家・町角の家」でエコビルド賞、2013年には「i-works project」でグッドデザイン賞を受賞するほか、多くの受賞歴も持つ。「斬新でなく実用的なデザイン、居心地のいい設計」をモットーに、住宅を中心に今なお現場で設計を行う伊礼さんの、建築に対する真摯な想い、また彼が考える“いい家”とはどういったものなのだろうか。

建築家は、省エネが嫌い?
“暮らしやすさ”の設計にこそ本分がある

正直言って、建築家の多くはZEH(*1)に良いイメージを持っていないと思います。できればやりたくないというのが本音ではないでしょうか。私も省エネ住宅=良い住宅だとは思っていなくて、たくさんの”省エネ”と呼ばれる住宅を見てきましたが、正直、魅力的だと感じる住宅は少なかったように思います。ではなぜZEHや省エネ住宅に魅力がないかというと、住宅の性能を上げることしか眼中にないかのような設計で、暮らしやすさや心地良さ、周辺環境との調和や近隣との良好な関係性など、本来の設計、デザインといった面に配慮が欠けているからです。ただ一方で、建築家の方もデータや性能にはあまり興味がないのが実情で、自分が作った建物がどれくらいのエネルギーを使うのか、あるいは省エネになっているのか分からないのが現実だと思います。建築家のほうも今後は計算やシミュレーションをするなど、性能やエネルギーをきちんと把握して設計しなければならないと思います。

*1: ZEH(ゼッチ)=Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略。太陽光発電など自家発電でエネルギーを創り出すことにより、年間の一次消費エネルギー(冷暖房、照明、給湯、換気)をゼロにする住宅のこと。国の政策で2020年までに新築住宅のゼロ・エネルギー化が推進されている。

「ゼロ」でなければならない、ZEHの大義とは

ところが、ZEHとなると少々疑問が湧いてきます。「ゼロ」にしなければならないことで、好きでもない設備に頼らなければなりません。都会では屋根にすら陽が当たらないところもありますし、75%とか50%じゃダメなのか、ゼロである必要性、その大義名分が今一つ納得いきません。また、性能重視派の人たちは性能や省エネの話しかしないんです。周辺環境や近隣との関係などの話はあまり出てきません。あたかも周囲に何も遮るものがない駐車場とか空地のような場所にポツンと性能の高い箱を置いているような感覚です。建物の回りはほとんど設計されなくて、南面だからって大きな窓を設けて、日当たりはいいんですが、向かいの家のエアコンの室外機が丸見えになっていたり、そこに住む人にとっての、暮らすことへのデリカシーが欠如していて、心地良く思えない住宅が多いように感じます。


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  1. 琵琶湖湖畔の家

省エネだけで家づくりはできない
目指すは「得」より「徳」ある住まい

省エネや性能が大事ということは、もちろん理屈ではとても良く分かるんです。温度差がなくて快適なのはとてもいいことです。でも私なんかは少しくらい変動するくらいがいい、夏は夏らしく、冬は冬らしく、住まい手が能動的に暮らしに関与することで得られる快適さのほうが満足度も高く、愛着も感じるんだと思います。そういう意味で私は窓や窓際の役割をとても大事にしています。箱としての性能は一定に確保しつつ、いくつものレイヤーで開口部を構成し、変動を許容する要素として捉えるんです。私が考える日本的なエコハウスは開口部で暮らしを制御できること、温熱環境だけでなくご近所との関係やプライバシーをどう守るかも含めてです。ZEHが義務付けられたら日本各地の風景が様変わりするかもしれません。「高性能+太陽光発電」の家しか建てられないというのはとても悲しい話です。私が尊敬する建築家・吉村順三さんや奥村昭雄さんは控え目なデザインを大切にされていました。私も周囲と調和した佇まい、美しい屋根、風景に溶け込む住まいが最終目標のように感じています。決して「省エネ」という観点だけで家づくりはできない、省エネは社会人として守るべき要素の一つに過ぎなくて、データや数値に置き換えられない別の暮らしを豊かにする価値がまだまだたくさんあるわけです。「得」より「徳」のある住まいを作りたいものです。

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  1. i-works2.0
  2. 開口部にはレイヤー化された建具が入ることで、様々な表情や外部との関係性を生む。(写真は「つむじi-works」のもの)
伊礼 智(いれい・さとし)
伊礼 智(いれい・さとし)

伊礼 智 (Satoshi Irei)

1959年沖縄県生まれ。1982年琉球大学理工学部建設工学科卒業後、東京藝術大学美術研究科大学院修了(奥村昭雄研究室)。丸谷博男+エーアンドエーを経て、1996年伊礼智設計室開設。2005年から日本大学生産工学部建築工学科居住空間デザインコース非常勤講師。2006年「東京町家・9坪の家」、2007年「東京町家・町角の家」でエコビルド賞受賞。主な著書に『伊礼智の住宅設計作法』(アース工房)、『伊礼智の住宅設計』(エクスナレッジ)など。OMソーラーの家を数多く手掛ける。

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