DIYで作る“世界一幸福”な暮らしイェンス・イェンセン

Credit : Writer,Photo きづき編集部
From : きづきvol.36「あの人に会いたい」

シンプルで手仕事の良さを感じられる住まいや自然との共生、高福祉を実現し“世界一幸福”と称されるなど、いま世界中から注目を集める北欧のライフスタイル。デンマーク出身の著述家・ガーデニストのイェンス・イェンセンさんは、そんな北欧の文化―とくに母国で伝統的な「コロニヘーヴ」(住宅地に隣接する小屋付きの庭の集合体)を日本でも実現できないかと考え、活動してきた。
都会のマンションからDIYでリノベした鎌倉の自宅に移り住み、子どもたちと一緒に「コロニヘーヴ」を訪れる日々を「季節を肌で感じ、お金では買えない価値を感じる」と語るイェンスさんは、いまとても幸せそうだ。

都会の人々の大切な憩いの場「コロニヘーヴ」

都内のマンションに住んでいたデンマーク出身のイェンス・イェンセンさんは、母国で長い歴史をもつ「コロニヘーヴ(*1)」を日本でも実現できないか、来日してからいつもそのことが頭にありました。コロニヘーヴとは住まいとは別に設けられた庭のことで、たいてい小屋が作られます。

「ドイツの”クラインガルテン(*2)“、ロシアの”ダーチャ(*3)“などと似ていますが、それらはどちらかというと畑や菜園など自給自足的な位置付けなのに対し、コロニヘーヴは休息や憩いのための場所というイメージです」

野菜も育てますが家庭菜園といった趣で、芝生の上で昼寝をしたり、仲間とバーベキューを楽しんだりなど、多様な楽しみ方があるのがコロニヘーヴの特徴だといいます。デンマークでは100年の歴史があって、元々は貧しい人たちのための菜園という位置付けでしたが時代とともに様変わりし、今ではマンションなど都会に暮らす人々にとって、なくてはならないコミュニティの場となっているそうです。

そんなイェンスさんに転機が訪れたのが今から9年近く前のこと。当時デンマーク大使館に勤めながらも執筆活動や料理研究家としての活動もしていたイェンスさんは、出版者の方から小田原に土地があるからやってみたらと紹介を受けます。コロニヘーヴとしては遠距離になりますが、その誘いに乗らない理由はありませんでした。それ以来、平日は都会のマンション、”週末はコロニヘーヴ”の暮らしが始まりました。

*1: コロニヘーヴとは「コロニー(集合体)」+「ヘーヴ(庭)」から生まれた言葉で、都市部の集合住宅に隣接して設けられる庭を指す。本場デンマークでは、小屋付きの庭が20~30区画集まって一つのコロニヘーヴを構成している。コロニヘーヴの詳細はNPO日本コロニヘーヴ協会のWebサイト参照/ www.kolonihave.com

*2: 直訳すると「小さな庭」だが、「市民農園」としての側面が強く野菜や果樹、草花が育てられ、laubeと呼ばれる小さな小屋が併設されている。

*3: 第二次世界大戦中の食糧不足の対策として、市民に対し土地を与えるよう制度化したもの。当初は物置小屋程度のものが多かったが最近では電気、ガス、水道、舗装道路まで完備したものも。

  1. デンマークにあるコロニヘーヴの様子。デンマークでは400㎡程度の広さが平均的。

仲間とつくりあげたプロセスそのものがコミュニティとなった

コロニヘーヴ作りは簡単な作業ではありませんでした。土地は荒れ果てた傾斜地で開墾するところから着手。畑と同時に小屋作りもプロの手を借りつつ仲間とともに自ら行いました。小屋のあるコロニヘーヴの風景をつくるのに約1年を要しました。

「デンマークでは学校の授業で木工を教えます。男でもミシンを使うし、女の子でも木工をやるんです。小屋も自分たちで作るのが当たり前なんです」

そして、それでは飽き足らなくなったイェンスさんは、6年ほど前についに都会を抜け出します。「コロニヘーヴもそうですが、ずっと田舎で暮らしたかったんです」鎌倉の郊外、急な坂を登り切った山の上に建つ築40年の中古住宅を購入します。裏に森が広がる緑豊かな環境が気に入りました。この家も週末DIYをしながら4年掛けてリノベーション(*4)したといいますから、その間は都内のマンション、小田原のコロニヘーヴ、鎌倉の新居の3拠点暮らしだったことになります。

「ここに引っ越してからも月に1・2回は子どもたちと一緒にコロニヘーヴで過ごしていますが、家にいる時間がとても長くなり外出しなくなりした。本当にお金を使わなくなりましたね。でも、桜が咲き、藤が咲き、この後は紫陽花が咲きます(取材時)。季節の変化を肌で感じ、今の暮らしにはお金では買えない価値を感じています」
作物をつくり料理する、家をつくり修理する―。その価値は、”自分の暮らし”に寄り添っているからこそ感じるに違いありません。

*4: 中古物件など既存の建物の大規模な改修を行い、機能性やデザイン性を向上させること。リフォームが機能の回復を主としているのに対し、リノベーションはプラスαの価値を高めることを目的とする。

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  1. 小田原・江の浦のコロニヘーヴでの一コマ。コロニヘーヴで採れた食材を使って調理し、みんなで食べる。それだけでみんなが笑顔になれる。
  2. 鎌倉の家もこどもと一緒にDIY。古い家を自分で直して住むのはデンマークでは当たり前。
  3. 鎌倉の家のデッキ。家の裏手には緑豊かな風景が広がる。もちろんデッキもDIY。
イェンス・イェンセン(Jens H. Jensen)
イェンス・イェンセン(Jens H. Jensen)

イェンス・イェンセン(Jens H. Jensen)

デンマーク出身。
一般社団法人 日本コロニヘーヴ協会・代表理事。北欧の料理屋デザイン、DIYなど、手仕事の良さを感じられる北欧のライフスタイルを提案。
著書に『イェンスの庭時間』(学研パブリッシング)、『イェンスの畑のある週末』『イェンスの畑づくり』(ともにエイ出版社)『イェンセン家のマンションDIY』『イェンセン家のホームディナー』『イェンセン家のクリスマス』(いずれも文藝春秋)など。

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