父の背中から学んだ“家族の住まい像”東 利恵

Credit : Writer きづき編集部 Photo 村井修
From : きづきvol.38「あの人に会いたい」

「星のや」リゾートの設計を一手に引き受ける建築家・東利恵さん。父・東孝光の処女作であり、名作住宅として知られる「塔の家」で幼少期を過ごし、父の背中を見て育った。青山と神宮前の中間、ワタリウム美術館の斜め向かいに位置する「塔の家」は、1966年に竣工。わずか6坪の土地に、地上5階+地下1階のRC造。空間を最大限に生かすため、各階はスキップフロア的に繋がり、おおよそ1Fに1つの機能という大胆な構成。建築としてあまりに有名で、斬新さやスペースの活用が取り沙汰されることが多いが、東さんにとっては「お互いの気配を感じる程よい距離感」で、家族の皆が心地いい“日本的な家族の住まい”だった、という。いつも身近にいた父の存在を感じながら培った、東さんが考える理想の“家族の住まい”をひもとく。

“家族の住まい”だった、名作住宅「塔の家」

東利恵さんは名作住宅「塔の家」で有名な建築家・東孝光さんの一人娘として生まれ、子ども時代の多くを家族とともに塔の家で過ごしました。「それまでは父は単身赴任で東京にいたので、私は大阪の母方の実家が持っていた駅前の小さな薬局の二階に母と二人で暮らしていました。東京に来て塔の家に引っ越したときは自分の部屋があったりして、とても嬉しかったことを覚えています」引っ越して数日は靴を履いたままだったそうで、日本の普通の家にはない暮らしを楽しんでいたように思うと、子ども時代を振り返ります。

大学卒業後に米国に留学し、帰国後を含め様々な住まいを経験します。アメリカでは木造の大きな家をシェアしたり、コーネル大学出身の建築家が設計したRC造の集合住宅に住んだり、帰国後はいわゆる大型マンションにも住んだことがあるとのこと。「様々な住まいの経験から”心地良さ”をとても意識するようになりました。ただ、街中に住みたいという思いが強かったので都心部に住むことが多かったですね」とはいえ、日本のマンションの一般的な間取りは玄関、トイレ、中廊下といったもので、個室はドアを閉めてしまえば完全に密室になってしまい、家族の気配すら感じなくなります。「私はそういう住まいが家族の住まいとしてどうなのか?と思うんです」

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  1. 子ども室の様子。写っているのは東さんご本人。(©村井修)
  2. 現在の「塔の家」。

建築家になったのは、目の前に父の背中があったから

塔の家はスキップフロア的に各階が繋がり、間仕切りのための建具はほとんどありません。「視線が切られているので姿は見えませんが、どこにいても家族の気配を感じました。私の部屋は最上階だったので居間や両親の寝室を通らざるを得ませんでしたし、母も洗濯物を干すのに私の部屋を通らないといけません。帰ってきた父が私の顔を見に階段を上がってくる足音をいつも感じていました。足音がノック代わりでした」家族がお互いの気配を感じる程よい距離感こそ、日本的な家族のあり方ではないかと東さんは語ります。

「 星のや東京」。国際都市・東京の都心に和のおもてなしを表現。江戸小紋をモチーフにした外観デザイン、内装は伝統的な日本旅館をイメージ。玄関で靴を脱ぎ、床には畳を多様。(写真:ナカサアンドパートナーズ)

「それから、いつも父の姿を間近に見てきたからなんだと思いますが、小さい頃から好きな仕事をする人たちに接していたように思います。家にはよく父の仕事仲間が出入りし、仕事の厳しさとともに、皆が楽しんで仕事をしている姿を見てきました」日本に長寿の会社が多いのは、職業感が親から子へと受け継がれてきたからではないかと語ります。「もちろん仕事にもよりますが、人気企業に就職することが目的になってしまってはあまりにも寂しいですよね。塔の家に住んでいなかったら、私も建築家になっていなかったかもしれません」東さんは「星のや」の設計を一手に引き受けています。家族の皆が心地いい―、その原点は塔の家にあったのかもしれません。

「 星のや富士」。豊かな自然を最大限活かした設計。アウトドアを楽しむための星のや。(写真:ナカサアンドパートナーズ)

東 利恵(あずま・りえ)
東 利恵(あずま・りえ)

東 利恵 (Rie Azuma)

1959年大阪生まれ。1982年日本女子大学家政学部住居学科卒業。1984年東京大学大学院
工学系研究科建築学専攻修士課程修了。1986年コーネル大学建築学科大学院修了後、東環境・建築研究所代表取締役就任。2007年ホテルブレストンコートプライベートコテージにてグッドデザイン賞、JIA優秀建築選受賞、星のや軽井沢にてARCASIA Awards Gold Medal、JIA環境建築賞優秀賞、AIJ作品選集受賞ほか多数。著書に『収納のデザインと工夫』(共著、彰国社)、『塔の家白書』(共著、住まいの図書館出版局)ほか。

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