“3つの人生”を旅する暮らし佐々木 俊尚

Credit : Writer,Photo きづき編集部
From : きづきvol.36「あの人に会いたい」

カルチャーやライフスタイルはもちろん、最新トレンドから刺激的なヒトまで、世界中のおもしろいトピックを扱うWebマガジン『TABI LABO』の編集長としても有名な、ジャーナリストの佐々木俊尚さん。常に自分に合った暮らし方を模索し、結果的に世の中に新しい価値観を提示してきた佐々木さんはいま、東京・軽井沢・福井の3拠点それぞれに生活の基盤を置いている。“衣食住のカジュアル化”、“街そのものが家になる”、“多様な価値観に寛容であるか”など、今の時代を紐解くキーワードが次々と飛び出したインタビュー。震災をきっかけに始まった多拠点生活も早5年、「旅するように暮らす」佐々木さんはいま、どんなことを考えているのだろうか。

東京、軽井沢、福井 ― それぞれの意義と暮らし方

作家でジャーナリストの佐々木俊尚さんは、東京の住まいのほかに、軽井沢と福井にも拠点を持っています。それぞれの滞在割合は平均するとひと月に東京に2週間と少し、軽井沢に1週間くらい、福井に4・5日程度ということです。「軽井沢は古くからの別荘地ですし、東京24区と呼ばれるくらいインフラや商業施設などが整備されていますから拠点にはしやすいですよね。家賃も東京並ですが、アクセスを考えると便利ですし何より”よそ者”を受け入れてくれる土壌があるのが居心地の良さに繋がっていると思います」住まいも地元の不動産屋さんが賃貸の戸建て住宅をわざわざ新築してくれたほどで、そういった地元の人たちのウェルカムな雰囲気は軽井沢ならではかもしれません。
一方の福井はイラストレーターをされている奥さんが陶画作品を作るようになったことから繋がりができた拠点です。「越前焼陶芸村からほど近いところに工房付きの戸建てを格安でお借りしています」月1万8千円の家賃をご友人と折半されているので実質9千円だそうです。「僕は料理が趣味なんですが、魚が美味いので福井にいる時はもっぱら僕が料理人役を務めています。それと、あまり知られていませんが、福井は大都市へのストロー効果(*1)が少ないので実は日本一社長が多い土地柄でもあるんです。若手社長との出会いも多いので、僕の仕事上の繋がりもあるんです」主に東京は人と会う場所、軽井沢は執筆&気分転換、福井は料理&出会いの場として位置付けられています。

*1: 交通網の開発により都市が発展したり衰退したりすること


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  1. 軽井沢の家の近くから見える浅間山。ときにこのように大きな噴煙をあげている。
  2. 軽井沢の家

「多拠点生活」とは“衣食住のカジュアル化”

元々、TABI LABOというネットメディアの創業メンバーの一人でもあり、「旅するように暮らす」「暮らすように旅する」といったライフスタイルを志向されている佐々木さんですが、多拠点居住のきっかけは東日本大震災にありました。「東京だけではなく、住まいを分散することはリスクヘッジになるはずです」巨大地震に対して都市のインフラの脆弱性が露わになりました。「軽井沢も福井も、東京と同じように服や生活用品は一通り揃っているので、移動するのも荷物は最小限で済みます」また、住まいそのものもシンプルになるといいます。「要る、要らないがハッキリしますね。持ち物は少ない方に合わせるようになり、三箇所ともほとんど同じものだけがある感じです」慣れてしまえば移動も苦にならず、移動時間はむしろスイッチの役割を果たしているといいます。

「今まさに衣食住のカジュアル化が進行していると思います。鉄の扉や塀は過去の産物になりつつあり、内と外がシームレス(*2)で繋がってきていて、近代化以前の中間領域が復権してきていると感じます。家や冷蔵庫は小さくなり、まちそのものが”家”になりつつあるのではないでしょうか」その家の構成員は共同体のメンバーという意味合いが濃くなり、家族に代わるコミュニティの形成に繋がっていくのかもしれません。「とはいえ、まだまだその受け皿は見えにくい状況だと思います。これはシャッター街問題(地方再生)にも通じていますが、よそ者や多様な価値観に寛容であるかが問われているんです」佐々木さんはいわば、3つのコミュニティを行き来しているといえ、その3つに入れるかどうかは、地方自治体にとって再生のカギでもあるようです。

*2 : 複数の要素が繋ぎ合わされている状態において、その繋ぎ目が認識できない(気にならない)状態のこと。

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  1. 福井の家からクルマで少し走ると、風光明媚な越前海岸へ出る。
  2. 日本海は海の幸が美味しい。写真は友人からもらったブリカマを煮付けにしたもの。
  3. 正月は軽井沢で過ごすそう。地場の野菜を使ってつくったお雑煮。
佐々木 俊尚(ささき・としなお)
佐々木 俊尚(ささき・としなお)

佐々木 俊尚 (Toshinao Sasaki)

1961年兵庫県生まれ。
毎日新聞社、アスキーを経てフリージャーナリスト、作家として活躍。
ITと社会の相互作用と変容、ネットとリアル社会の衝突と融合などが主なテーマ。
著書に『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァートゥエンティワン)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『レイヤー化する世界』『21世紀の自由論』(ともにNHK出版新書)ほか多数。

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