父から娘、後世へと継承される“生き様”林 美樹

Credit : Writer,Photo きづき編集部
From : きづきvol.38「あの人に会いたい」

父は建築家だった。両親が設計した⽊造の実家は、ライフステージに応じて改築された。そこでは⼤⼯さんは⾝近な存在で、庭ではよく鉋掛けの作業が行われていた――そんな家庭で多感な時期を過ごした林美樹さんが、父と同じ建築の道へ進んだのは、ごく自然なことだったように思える。“後世にツケを残さない、くさる家”、“寿命よりも長く保つ家を、自分のためだけにつくってはいけない”、“身近な素材で家をつくることが、もっとも持続可能な家づくり”など、林さんの言葉の端々には“父の生き様”が宿る。人間は自然の一部であり、家もまた循環の中で土に還るべき。父から娘へと受け継がれたものは、建築の思想ばかりではなく、後世に残すべき“人のあるべき姿”を見つめ直させてくれる価値観だった。

家づくりは、風土と文化に適した
伝統技術を見直すことから

林美樹さんも建築家の娘として育ちました。「育った家は両親が設計した家でしたが、家はライフステージに応じて改築する、住みながら直す、ということが当たり前だと思っていました」実家でも出入りの大工さんがいて、庭で鉋掛けしている風景は身近なものだったといいます。「日本の木造家屋は改築が容易で、生活の変化を受け入れてくれるんです」大学までこの家で暮らし、その後は大手設計事務所に勤務しながら、自分の住まいとして、また仕事として様々な建築を”体験”します。「工法や素材など、それぞれの特徴がだんだん分かってきました。結局行き着いたのは、昔ながらの家、日本の風土がつくりあげた伝統技術を活かした木造の家だったわけです」

イタリアに留学し、その土地の人々の素材の使い方や住まい方から多くを学んだこともその思いを後押ししました。「イタリアやスペインの人たちが昼休みを長くとるのは、暑い日中を避ける意味で合理的なことなのです。夕方になると、広場に出ておしゃべりするのも、厚い壁が蓄熱されていて室内が過ごしにくいからなんです。住まいや環境に合わせた暮らしをむしろ楽しみ、文化として受け継いでいるわけです」生産性や効率ばかり重視する日本のあり方とは対照的な姿です。

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  1. 緑豊かな現在のご実家の様子。(写真:林美樹)
  2. 冬は陽射しが室内に入り込み暖かい。OMソーラーが導入されている。(写真:林美樹)

寿命よりも長く保つ家がなぜつくる?
後世にツケを残さない生き方

「建築家は皆そうだと思いますが、父も新しい技術や設備の採用には積極的でした。OMソーラーもそのひとつです」今は実家に事務所を構え、環境に負荷をかけない”くさる家”をつくり続けています。「”くさる家”というのは、仲間と出版した本で使った言葉で、”腐る―”、つまり最後は土になって自然の循環の中に還っていく、そんな家を指しています。これはメンテナンスフリーとは対極にある考え方です。後世に付けを残さない潔い生き方そのもので、これからの世代に引き継いでもらいたい価値観でもあります」

林さんは、人の寿命よりも長い家を、自分のためだけにつくってはいけないと語ります。「家も、建物としてだけでなく、庭との関係、周辺環境との関係を考慮することが大事です。それによって景観が整い、良好なコミュニティの形成にも繋がります」身近な素材でつくる家は、最も持続可能な家づくりといえるかもしれません。こういった環境に対する視点をもつようになったのも、父親譲りなのかもしれないと林さんは振り返ります。「学生の頃は、父が建築家であることがプレッシャーになることもありましたが、今では父の考え方に共感していますし、父と一緒に建築を見て回るのはやっぱり楽しいです!」そう語る林さんの笑顔が印象的でした。

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  1. OMソーラーが導入された南葉山の家。(写真:畑亮)
  2. 南葉山の家の内観。大きな開口からは海が臨め、大空間を冬は太陽熱が暖める。(写真:畑亮)
  3. 武蔵野・草屋根の家・内観。木と土でつくられた家はそれだけで優しい雰囲気になる。(写真:畑亮)
林 美樹(はやし・みき)
林 美樹(はやし・みき)

林 美樹 (Miki Hayashi)

東京生まれ。1983年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。1985年同大学大学院造形研究科デザイン専攻修了。1985~96年日本設計インテリア設計部勤務。1992~94年ヴェネチア建築大学。1996Studio PRANA主宰。1999~2007年武蔵野美術大学造形学部建築学科非常勤講師。2015年~前橋工科大学建築学科非常勤講師。2008年武蔵野・草屋根の家で住まいの環境デザイン・アワード2008環境デザイン優秀賞、2016年祖師谷の家で「多摩産材をつかった家づくり」コンクール優秀賞ほか。著書に『くさる家に住む』(共著、六耀社)など。

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