おばあちゃんは暮らしの達人でした石村 由起子

Credit : Writer,Photo きづき編集部
From : きづきvol.39「あの人に会いたい」

全国に熱心なファンを持つ、奈良のレジェンド的カフェ&雑貨店「くるみの木」のオーナーであり、自然を取り入れたシンプルライフを提唱する“暮らしのコーディネーター”として多くの著書を持つ、石村由起子さん。カフェを始めたのは、その言葉自体まだ耳新しかった30年以上も前のこと。この類まれなセンスのヒミツは、両親ともに忙しく祖母と過ごす時間が長かったという、幼少期にあった。「おばあちゃんは暮らしの達人。料理教室を開いたり、ご近所さんの悩みを聞いたり、いつも人が集まる家でした」。
「ていねいな暮らし」といったキーワードが市民権を得るなど、日々の生活に美学を持つことが豊かな暮らしの条件と考えられるようになった昨今。紛れもなくその先駆であり、幼き日の夢を今もなお一歩ずつ体現している石村さんの原動力の源とは。

日記に綴った幼き日の夢そのままに
ふとしたきっかけで叶った、お店を開く夢

奈良にローカルなお店でありながら全国からファンが訪れるカフェ&雑貨店があります。名前は「くるみの木」。オーナーの石村由起子さんは、ふとした出会いから「お店を開く」という小さい頃の夢が蘇ったといいます。「紫陽花の花が咲き乱れる小さな木造の建物があって、その姿が子どもの頃に日記に描いた絵とそっくりでした。ここで、お母さんが家族に食べさせたいと思うものをつくりたいと思ったんです」その建物を借りることができ33年が経ちました。その間に、レストランとギャラリー、小さなホテルを併設した「秋篠の森」、東京にも「ときのもり」という新たなお店が生まれました。

地方の小さなお店を全国区の人気店に育てた手腕や審美眼は、今やコーディネーターやコンサルタントといった仕事にまで拡がり、各方面から仕事の依頼があるといいます。そんな石村さんの美意識、モノを見る目はどうやって培われたのでしょうか。「私の両親はともに忙しく働いていたので、私はおばあちゃんと過ごす時間が長かったんです」生まれ育った家は竈や縁側、五右衛門風呂のある昔ながらの日本家屋で、そこでの暮らしは”おばあちゃんの知恵”そのものだったそうです。「おばあちゃんは暮らしの達人でした。家で料理教室を開いたり、ご近所さんの悩み事を聞いたり、いつも人が集まる家でした」工夫を凝らして人をもてなす、人が喜ぶ顔を見るのが何より嬉しい、おばあちゃんの生き方は傍にいた少女にも確実に伝わったのです。

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  1. 季節の野菜を中心とした「くるみの木」のランチ。お母さんが家族に食べさせたい食事。
  2. シンプルな製法でつくられるオリジナルのジャム。つくり手の思いが詰まった優しい甘さが人気。
  3. 観光案内所、食堂、喫茶室からなる複合施設「鹿の舟」。伝統的な生活文化が今も色濃く残る奈良町の魅力を発信している。

「完全よりも、どうしたら喜んでもらえるか」
知恵と工夫を凝らした、古き良き暮らしを体現

モノを大事にする心、知恵と工夫を凝らした、日本の古き良き暮らしを大切にしたい― 。この思いを胸にお店を開いた石村さんですが、お店を開けても全く人が来ない日々が続きました。「最近、オープンした当時の古いメニューを目にすることがありました。そこには体に優しいランチとか、山葡萄のジュースとか、今よりもずっとこだわりの強いメニューが書かれていて、独り善がりだったのかな…と思いました」こだわりの強さが実は人を寄せ付けない空気をつくっていたのかも―。「変わってはいけないことと、変わらなければいけないことのバランスを思い知らされました」石村さんはこの経験が、より一層”ブレない自分”をつくってくれたと語ります。

「店では、季節のもの、安全なもの、地元のもの、をできるだけ取り入れるように心がけていますが、完全にという訳ではありません。完全を求めるよりも、どうしたら喜んでもらえるかのほうが重要なんです」食べた後のお客さんの顔が何より気になる―。「喜んでもらえたか?スタッフには毎日そればかり聞いています。」そして、誰からも愛される店をつくりたいといいます。「全ては感謝からはじまります。虫やヘビは苦手でしたが、役に立たないものはこの世にありません。彼らがいるから私たちも生きられる。あるのが当たり前ではなく、なくて当たり前、あることに感謝しなくてはいけません」感謝の心こそ、価値あることだと語ります。昔に比べてスタッフの数は格段に増えました。お客さまとともにスタッフへの感謝の気持ちが、今は石村さんを動かしているのかもしれません。

秋篠の森にあるレストラン「なず菜」。地元の生産者がつくる旬の大和野菜を中心に、創意工夫が凝らされた食事が楽しめる。

石村 由起子(いしむら・ゆきこ)
石村 由起子(いしむら・ゆきこ)

石村 由起子 (Yukiko Ishimura)

大手企業の企画や店舗開発の仕事を経て、1984年にカフェと雑貨の店「くるみの木」をオープン。その後奈良市内に「秋篠の森」「鹿の舟」、東京都白金台に「ときのもりLIVRER」をオープン。日々の暮らしを大切に、心豊かに過ごせるような空間や生活道具を提案し、全国にファンを持つ。「奈良生活デザイン室」を立上げ、国内外の企業や自治体などの商品企画から、町づくりなどにも関わる。『私は夢中で夢をみた』(文芸春秋)、『石村由起子のインテリア』(主婦と生活社)など著書多数。

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