“一人問屋”が繋ぐ、つくり手の思い日野明子

Credit : Writer,Photo きづき編集部
From : きづきvol.40「あの人に会いたい」

”クラフトの一人問屋”を営み、目利きとしてつくり手からの信頼の厚い日野明子さん。クラフトは本来、手工芸品を指す言葉でしたが、日野さんは手仕事によるものか機械で生産されたものは問わず、「使うことに重きをおいた工芸」ととらえています。大事なのは製造の手法や工程ではなく、使い勝手と、つくり手の思いに心を動かされるかが、判断の基準。“繋ぐ人”に魅了された製品は、つくり手から売り手へ、そして売り手から使い手へと渡っていきます。
全国のつくり手を訪れ、一人ひとりの思い入れを直に感じ取り、世に広め続けてきた日野さん。「自分が扱いたいモノは、パッと見て分かる」という彼女に、いまこそ求められる“良いモノ”とは何かを伺いました。

全国各地の生産現場で見聞きして理解した「暮らしのためのデザイン」

神奈川県藤沢市で生まれ育った日野さんは、小さい頃から隣町である鎌倉までしょっちゅう自転車を漕いで「お店」探索をしていたといいます。鎌倉にはオーナー自らが選んだモノを置いているお店が多く、モノそのものの魅力とともに、そのモノを選んだお店や人にも魅力を感じていたそうです。そして、大学在学中に恩師である秋岡芳夫氏と出会い、秋岡氏の考え方や価値観から大きな影響を受けることになりました。秋岡氏は、自らも工業デザイナーでありながら、大量生産・大量消費社会に疑問を投げかけた人で、「暮らしのためのデザイン」という考え方を展開し、手仕事や手道具の楽しさを著述や展覧会等を通して広め、日本各地の工芸産業の育成にも尽力してきた方でした。

大学卒業後は百貨店「松屋」の子会社である「松屋商事」に就職し、北欧のテーブルウェアや日本の生活道具、工芸作品等を取り扱ってきました。その後、松屋商事は解散してしまいますが、日野さんは引き続き営業を続け「スタジオ木瓜」を設立、”一人問屋”として、作家や産地とお店を繋ぐ活動をコツコツと続けてこられました。最近では展覧会を企画したり、著述、雑誌の取材協力等、エンドユーザーに直接モノの魅力を伝える活動も増え、”モノとヒトの繋ぎ手”として一目置かれる存在になりました。今では自分が扱いたいと思うモノは「パっと見て分かる」といいます。「秋岡先生や松屋時代の先輩から受けた影響は大きかったと思います。日本中のモノづくりの現場を巡らせてもらい、場数を踏んだことが結果的に繋ぎ役としての訓練になっていたのかもしれません」

自宅の食器棚には漆がたくさん納まっている。自分が扱っているものだけではなく、漆という素材が好きで、気になると求め、使い勝手を楽しんでいる。安いものではないが、満足感はお金には変えられないそう。

“良きモノ”に宿るつくり手の思いと、それを繋げる魅力的な人

日野さんにとって、良いモノ、そうでないモノとは何が違うのでしょうか。日野さんは自分が取り扱うほとんどのモノは、産地やモノづくりの現場を訪れたうえで、実際に自分で使っているモノだといいます。地域の素材であること、理にかなった形であること、デザインが優れていることなど、使ってみたいという思いだけでなく、肌触りが良いこと、使い勝手が良いこと、長期の使用に耐えることなど、毎日使うこと、使い続けたいという思いを重視しています。しかし、こうした身近な道具としての本質的な価値を備えていることと同じくらい、人の「思い」に惹かれるといいます。

「必ずしも手仕事でなければならないとか、作家性が強くなければならないということではなく、たとえ工場でマシンにより大量に作られたものでも、つくり手の情熱や思いが感じられることが大事だと思っています」「お店に行っても、すごい勢いで説明してくれる人がいたりしますよね。そんな人やお店に魅力を感じたりするし、魅力的なつくり手や売り手の間に立って仕事をさせてもらっていることを本当に幸せだと感じます」30年前に比べ、情報量が増え、お金を出さなくても様々な情報が入手できるようになった現在は、逆に何が良くて何が悪いかも判断しにくくなっているかもしれません。そんな中、良いモノが伝わっていくプロセスの中に人の思いを大事にする人、魅力的な人の存在がある―。情報過多の時代だからこそ、そういう人の存在が求められており、日野さんはその一人といえるのかもしれません。

それまで、「選ぶ」または「アドバイス」するだけだった日野さんが初めて関わった商品開発。
ステンレスシリーズ「conte」。新潟の燕のステンレス工場は分業の世界。
様々な技術のプロに出会えたからこそ出来あがった。デザイナーの小野さんのデザインに対する姿勢も勉強になったとのこと。
(企画製造/一菱金属株式会社、デザイン/小野里奈、日野氏はアドバイザーと後方支援を担当)

日野 明子(ひの・あきこ)
日野 明子(ひの・あきこ)

日野 明子 (Akiko Hino)

1967年神奈川県生まれ。共立女子大学家政学部生活美術学科在学中に教授であった秋岡芳夫氏に影響を受ける。松屋商事株式会社(百貨店松屋子会社)にて北欧テーブルウェアおよび国内クラフト/工芸品の営業を経て1999年独立、スタジオ木瓜を設立。一人で問屋業をはじめる。百貨店やショップと作家・産地をつなぐ問屋業を中心に、テーブルウェアを主体とした生活に関わる日本の手仕事関連の展示会や企画協力を行う。『ku:nel』『クロワッサン』『Casa Brutus』『住む。』『料理通信』『AXIS Webマガジン』など雑誌やWebマガジン、新聞連載の執筆のほか、著書に『うつわの手帖』(ラトルズ発行)、監修に『ずっと使いたいいい道具 美しいうつわ』(成美堂出版)、『台所道具を一生ものにする手入れ術』(誠文堂新光社)など。

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